フリッパーズ・ギターについて

フリッパーズ・ギター(Flipper's Guitar)は、1990年前後に活躍したネオアコ・ユニットである。
ピチカート・ファイヴ、オリジナル・ラブとともに「渋谷系」ムーブメントの代表的存在だった。それらのグループは今や「90's」とも形容される音楽シーンの転換点に位置していた。
その楽曲の輝きは15年を経てなお色あせることはないが、コーネリアス(小山田圭吾)、小沢健二がやっていたバンド、というと当時のことを知らない人にもわかりやすいだろうか。
この二人はソングライティング・チームとして、ビートルズにおける「レノン&マッカートニー」と比肩しうる、とまで形容する言葉もあるくらいだ。
バンドブームは産業ロック的、つまり後ろにレコード会社のスタッフがちらつくような、そんなアーティストがほとんどで、売り出し方もアイドルのそれと一緒、といってよかった。
渋谷系が一種それらのアンチ、として登場してきた側面を指摘するのは今さらだが、彼らは商業主義よりも作家性を前面に打ち出し、アーティスト・イメージにおいてはセルフ・プロデュースを好んだ。
それは、「渋谷系」という呼称を、当の渋谷系グループは例外なく嫌っていた、このことに端的にあらわされているような気がするのだ。
ともかくもフリッパーズ・ギターの登場によって日本の音楽シーンは180度ターンしたといっていい。
ミスチルやスピッツが何百万枚もCDを売る時代の源流に彼らは位置していた。
これは3rdにしてラストアルバム『ヘッド博士の世界塔』に収録されていた「Blue Shinin' Quick Star」ののミュージックビデオである。

http://www.youtube.com/watch?v=FETfRqg7qVk&eurl=
![]() | THE LOST PICTURES,ORIGINAL CLIPS&CM’S plus TESTAMENT TFG Television Service フリッパーズ・ギター by G-Tools |
「ビバ・デス 90'sのオキテ」
この「i-D JAPAN」1991年8月号の連載対談も、彼らのセルフ・プロデュース意識のあらわれの一つとしてみることができるだろう。
この「ビバ・デス 90'sのオキテ」で語られている内容自体は下らないおしゃべり以上のものではないが、3rdアルバム『ヘッド博士の世界塔』発表時にプレスに配られた資料についても語られている。
このプレス資料に関しては、クレジットは「DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION」(=フリッパーズ・ギター)とあるものの、内容からして小沢健二が中心で書いたと思われる。
なお、「i-D」に掲載されているものは抄録だが、資料本文にて著作権の放棄が宣言されているので、以下にもとの全文を転載する。
1. 遂に発売されるフリッパーズ・ギターの歴史的傑作3rdALBUM“Doctor Head's World's Tower/ヘッド博士の世界塔”は本気か冗談か57分にも及ぶ時代錯誤も甚だしいトータル・コンセプト・アルバムである。4. そのサウンドはサイケデリックなリアリズム、カラフルなモノトーン、クールでホット、一刹那の永遠、分解を目指す統合、男にして女、少年にして老人、あらゆる矛盾を飲み込んで膨れ上がる正にフリッパーズ・ギター独自のものであり、盗作の果てのオリジナリティーを確立するものである。
11. 夏の浜辺をビートでゴーゴー。初夏のユーミン、フリッパーズ・ギターの季節がやってきました。今年のフリッパーズはサイケデリックなテイストを取り入れて、ちょっぴり危険な感じ。7月10日はレコード屋さんに急がなくっちゃ。
90. 初回限定のジャケットは、世界初のメガネ付き3D仕様、“飛び出すフリッパーズ”バージョンである。
2. 雑誌への露出は表紙8誌、取材は実に50本を超える。
13. 相も変わらずふざけてるだけなんですけどね。
14. このレコードでフリッパーズは、例の鼻をほじっている様な、「~なんですけどね。」といった散文的日常性を全く無視し、韻文的な暴走を見せている。
29. ティラミスの次はネオアコ。ネオアコとはフリッパーズの事で、他の何でもありません。(談)
81. このアルバムはJack Tarr(1930-1961)の小説"Doctor Head's World Tower"にインスパイアされて作られた。その一節"Don't be afraid to lose control ..and control is the name of our game."(主人公とヘッド博士が初めて会う場面での博士の言葉)が、インナージャケットの右上に印刷されている。ジャックー・ターはケン・キージー率いる“メアリー・ブランクスターズ”の命名者だった。ウイリアム・バロウズの生涯の恋人だった。
35. 日本ロック/ポップス史に偉大な足跡が刻まれた。フリッパーズ・ギターこそは、革新的にポップの地平を切り拓き続ける、最先端のクリエイターである。メディアにだまされてはいけない。ふざけつづける彼らの真の顔は、恐るべき革命家としてのそれである。あらゆる意味で。
8. 全ては貴方に聴こえる“ヘッド博士の世界塔”参照。
41. なんとかオリコン1位になる手がないもんかね。
100. このレコードはワンランク上を目指すヤンキーの必需品である。戦うオリーブ少女の教科書であると同時に。
21. 背が伸びる。英語がペラペラになる。幸運が今すぐ貴方のお手もとに!ムダ毛一掃。今なら特別仕様ジャケットに、家紋をお入れします。その他、お子さまの教育に、口臭でお悩みの方、どうかだまされたと思って…
22. こうした減らず口にさらされるこのレコードはかわいそうである。
23. にもかかわらず超越的、普遍的で世界的、消費されるべきポップソング集、"Doctor Head's World Tower"7月10日発売。
43. このライナーのコピーライトを放棄する。無断転載歓迎。
組み合わせ例:2-13-41-22-11
"Don't be afraid to lose control..., and control is the name of our game."
----Jack Tarr "Doctor Head's World Tower"
さて、「ビバ・デス」ではこのプレス資料の意図について、次のような言及がなされている。
(太字は原文のもの)
――(中略)ライターの常套句を逆手にとって並べた減らず口を箇条書きにして「このライナーのコピーライトを放棄する。無断掲載歓迎」とかぬかしてるやつ。Z〔小沢〕 すごい痛快な、強烈な、ゴタマゼの。
Y〔小山田〕 ほんとにサンプリングしたレビューもあったしね。
Z でも中には「チャック・ターンの小説にインスパイアされたこのレコードは……」とか、何かわかんないようなのも(笑)。
――そのライター、眠かったんじゃないかな。
Z (爆笑)とにかく、書き終わればいいやって?
Y チャック・ターンならまだわかるけど、ジャック・タワーとか載ってたりしてさ(笑)。
もっとも、連載第二回にも関わらず、この対談の収録後、唐突な解散を理由に「フリッパーズ・ギター解散!!/エレクトリックにクールな、ドルフィンたちの遺言」などという見出しが打たれている。
この「パーフリ」の歌詞は山下達郎が批判したように、隠喩のみで成り立っているかのような「難解さ」が特色であったが、解散後、「ハイセンス」を売り物にした(い)バンドの歌詞は加速度的に抽象度を増し、意味不明な歌詞が氾濫することになる。
「ニセ」フリッパーズ・ギターとでもいうべき「スパイラル・ライフ」はもちろん、「スピッツ」、それとマイナーではあるが「エレクトリック・グラス・バルーン」であるとか。
とにかくもそれらはフリッパーズ・ギターが音楽シーンに与えた影響力を示すものだろう。
余談ではあるが、以前「エレグラ」の曲を聴く機会に恵まれたが、エピゴーネンどころか仇花の見本のようなものであった。ある意味一聴の価値があるといえよう。

